1.本の概要
著者は1940年、東京生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞に入社。ニューヨーク特派員・編集委員を経て退社。その後はデビッド・スズキ財団研究所の客員研究員となり、環境問題を研究。東京大学・北海道大学の教授、駐ザンビア特命全権大使等を歴任。
著者経歴 → https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%BC%98%E4%B9%8B
本が書かれたのは2014年でコロナウイルス(Covid-19)のパンデミックが発生する前のなのだが、マラリアやエイズ(HIV、AIDS)、エボラ出血熱といった日本人にはどこか自分事で無いものから、インフルエンザやヘルペスといった馴染み深いものまで広範なウイルスの起源、感染拡大・終息がいかになされてきたかが豊富なデータに基づいて述べられている。一見取っつきにくいテーマだが、世界史の教科書を感染症というテーマに沿ってまとめたライブ形式の参考書を読んでいるような文章で非常に読みやすい。
2.こんな人におすすめ
- コロナショックを機に感染症に興味がある
- 世界史(日本史)が好き
- ポストコロナの世界、生き方について考えている
- 先の見えないコロナショックに不安を抱えている
⇒ 前回の「82年生まれ、キム・ジヨン」は男にこそ読んで欲しい本だったが、本著は老若男女問わずに読んで考えて欲しい1冊です。
3.印象に残っている箇所
① ウイルスと人類の戦いはさながら「軍拡競争」だ!
ウイルス(感染症)が広がり、人間がそれを認知するようになれば、人間はワクチンを開発したり、乃至は自然に免疫ができたり次々にウイルスに打ち勝とうと打ち手を講じる。これに対して、ウイルス側も薬剤に対する耐性を獲得したり、さらに強い毒性を持つものに変異したりと双方に戦いを続けている。まさに今回のコロナ危機でも、中国の武漢が期限とされているが、ブラジル型だとか南アフリカ型だとか次々に変異種が見つかっており、今認められているワクチンが”全く効かない”ものがいつ出てきても可笑しくない状況だ。
② インカ帝国の滅亡は、武力よりも感染症の猛威によってもたらされた!
「銃・病原菌・鉄」でも書かれていたが、インカ帝国の滅亡は上陸した西洋人が持ち込んだ天然痘ウイルスが、抗体を持たない原住民の間で大流行を起こしたことが大きな理由だ。インカ帝国ではないが、コロンブスが到達したサントドミンゴ島(ドミニカ共和国・ハイチがある島)の人口は1519年当時およそ100万人だったとされるが、奴隷狩り・虐殺、そして何よりスペイン人によって持ち込まれた天然痘により、1559年にはわずか数百人にまで減少した。
③ コレラの流行が江戸末期の攘夷思想の隆盛に寄与した!
1822年に江戸でもコレラが流行した。直接の原因は不明で様々な風説が飛び交ったが、オランダ商人からコレラが広がったことが分かり、コレラを音訳して「酷烈辣」「狐狼狸」などと称された。1858年にはペリー艦隊にコレラを持った乗組員がおり、長崎に寄港した際に感染が広がった。8月には江戸に飛び火し三万人とも二十六万人とも言われる死者が出て、その後3年に渡り流行が続いた。その恨みが黒船や異国人に向けられ、開国が感染症を招いたとして攘夷思想が高まる一因になった。
④ 中国は感染症の起源としての種々条件を備えている!
ペストの世界的流行も新型インフルエンザも中国が起源とみられている。中国は13億4千万人を超える人口を有し、経済発展に伴い、春節の時期には約1億人が海外旅行をする。一方で、WHOとユニセフの調査では下水道を利用できない人口が数億人に及び、慢性的な大気や水質の汚染から呼吸器が悪化し病原体が体内に侵入しやすくなっている。
4.考えたこと
本書の巻末に書かれていることはまるで、コロナ禍を予言していたかのように思えた。中国を起源に発生し、人々の移動と共に感染が拡大し、ワクチンが開発されるも次から次へと変異種が生まれる。まさにウイルスと人類の軍拡競争が繰り広げられている。
本書では特に解決策や対策が述べられている訳ではないが、医療や経済が発達した現代人にとって人間自身を除く唯一の天敵がウイルスであることを理解させてくれ、歴史を知ることで、パニックにならずに対処することが大切だと思わせてくれる一冊だった。
コメント
ぎっくり腰の中よく書いたね!「 銃・鉄・病原菌」と被る話が多そうだけど、圧倒的にこっちのが読みやすそう!「銃・鉄・病原菌」の感想/書評書かねば…!
[…] 感染症の世界史書評:https://www.yutoringo.com/?p=235 […]